もし、夫が癌になっていなかったら・・・

もし、夫が癌になっていなかったら、
私の人生はどうなっていたのだろう・・・


数年前の自分はどんなだったか、あまりよく思い出せない。
いつも、少しの不安といら立ちと焦りがあったような気がする。
自分には何か足りないものがあるような気がしていた。
体重を気にして、しょっちゅうなんらかのダイエットをしていた。
あまり自分を好きではなかった。
たぶん、嫌いだったのかもしれない。
なんとか、マンションを購入しようとやっきになっていた。
それを手に入れれば、自分の人生は変わるんじゃないかと本気で思っていた。
大好きな北欧雑貨を集めて、こじゃれた暮らしを始めるんだ。
部屋はいつもきれいに掃除しよう。
身体にも、もっと気を使おう。
きっと、きっと、幸せになるんだ!と思っていた。
だけど、マンションを手に入れて3日目、何か違うという気持ちがむくむくとしてきた。
私が求めていた物はこんな物じゃないという気持ちは、ごまかすことは出来なかった。
私は、一体何を求めていたんだろう。
幸せ?安定?満足?さっぱり、わからなかった。
普通の、、、、本当に普通のある日、夫に癌が見つかった。
普通じゃなかったのは、その前日だ。
のんびり道を歩いていたら、私の身体が急に透明になってきたことだ。
錯覚だったのかもしれない。
けれど、私はパニックになった。自分の身体が消えていくんだから!
必死に、なぜだか息を止めた。
透明になるのは避けられた。
一体、何だったんだ?今のは?
のどかな、のどかな昼下がり、私は荻窪の住宅街で不思議な体験をした。
その翌日だ。
夫に、脳腫瘍が見つかったのは。
嵐の中の小舟のように、もみくちゃにされた。
苦しみと悲しみと不安と怒りと混乱と、あらゆるネガティブな感情が押し寄せてきた。
次の瞬間、自分がどうなるかも全く想像出来なかった。
全てが予測不可能になったみたいだった。
けれど、、、夫と私は、生き抜いた。
たいしたことは何もしていない。
なんとか、、、かろうじて、、、今も生きている。
そして、仕事も出来ている。
人生には、こんなことが起こるんだ。
今まで、たまたま何もなかっただけなんだ。
人生は、本来不安定なものなんだ。
そして、、、
以前の神経質な私は、もういない。
しっかり、自分の足で立っている感じがする。
本当に、夫を見ている。本当に、よく見ている。
世界は怖ろしい場所だと思っていたのが、今は違う。
もし、夫が癌になっていなかったら、、、
私は、この人生をしっかり生きられなかったかもしれない。
本当の自分にかすりもしないで、終わってしまうところだったかもしれない。
私が、本当に欲しかったものは、これだったんだ。
自分だったんだ!!!

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この記事を書いた人

福井てるこ

20代はプロの舞台俳優として全国を回り、33歳から鍼灸の道に入る。