世界が輝いている・・・

どういうわけか、この一節が心に残っています。
時折、ふと浮かんでくるのは何故なんでしょう・・・


「私は皆が病室から去ったあと、カーテンを開けました。駐車場が眼下に見えます。
何台かの車が出入りし、急ぎ足で車から去ってくる人が見えます。バス亭でバスを待つ人々もいます。
私には、それらすべてが、私と全く異種の、まるで異星人でも見ているような感覚に陥っていました。
あの人たちは私とは違う。あの人たちは、生きたい所へ自分の足で歩いていける、走ることもできる、
階段も昇れる。けれども、私はもう、あの人たちとは違うのだ。情けない思いでした。」
「その夕刻、自分のアパートの駐車場に車をとめながら、私は不思議な光景を見ていました。世の中が
輝いてみえるのです。スーパーに来る買い物客が輝いている。走り回る子供たちが輝いている。犬が、
垂れ始めた稲穂が雑草が、電柱が、小石までが美しく輝いてみえるのです。アパートに戻って見た
妻もまた、手を合わせたいほど尊くみえたのでした。」
これは、若くして悪性腫瘍で足を切断し、再発、肺に転移して亡くなった井村さんという医師の
「飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ」の一節です。
再発がわかった日、自宅アパートに帰りつくと、すべてのものが輝いていた、、、その一節が
ずっとずっと頭に残っていました。
あまりにも不思議だけれど、その心情のリアルさがいっそう伝わってきます。
私もいつか、キラキラを見るのでしょうか?
いや、、、もう見ているかもしれません。
日常は、あまりにも固定観念が強すぎて、
世界の本来の輝きを正確に認識していないだけかもしれません。
生死の淵に立つと、今までの観念が外れ、本当の世界の姿が立ち現われるのかもしれないです。

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この記事を書いた人

福井てるこ

20代はプロの舞台俳優として全国を回り、33歳から鍼灸の道に入る。