比叡山延暦寺コースの人生

昔、整形外科のリハビリ室に勤務していた頃、素敵な患者さんがいらっしゃいました。
たしかその時、御年84歳。
腰や膝やいろいろ痛いところはあるけれど、すたすたと歩く方でした。
薄化粧のとても綺麗な方でした。


私がいつものように、理学療法の機器を装着していると、突然こんなお話をされました。
「私、もう残り時間が少ないので、なるべく起きているんですよ~。」
なんのことだろうと尋ねると、
そろそろお迎えがくるので、一日一日が貴重だから、なるべく早く起きてなるべく遅く寝る。
できるだけ楽しみたいんだと明るくおっしゃいました。
なるべく長い時間起きているというささやかな抵抗がとても可愛らしいと思いました。
「私の姑は、100歳まで生きたんです。それはそれは修行でした。」
修行という言葉に私がくすりと笑うと、
「先生、笑いごとじゃないんです。比叡山延暦寺の修行みたいな人生でした。」
「とても厳しい人でした。」
「姑が亡くなった時、私はもう70代でした。それからようやく人生を楽しんだんです。」
「だから、一日一日が大切なんです。」
「今日という日が大切なんです。」
それから10年以上経ちます。
今の私には、人生そのものが比叡山延暦寺に思えます。
夫は時々「死にたいよ~」と言うことがあります。
手術の後遺症で認知が下がり、仕事に支障が出てきたのです。
私はこう言います。
「人生は比叡山延暦寺だよ。辛いけれど、必ず修行の終わりが来る。
苦しみは続かないから、途中で逃げちゃだめだよ。」
こんな言葉が、力になるのかどうかわかりません。
でも、人生は「学校」としか思えないのです。
自然に卒業するまでやらなければならないのです。
自分で選んで入ってきたというじゃありませんか?
きっと大丈夫。絶対大丈夫。
比叡山延暦寺で修行しただけのかいはありますよ!

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この記事を書いた人

福井てるこ

20代はプロの舞台俳優として全国を回り、33歳から鍼灸の道に入る。